コラム

うつ病の回復過程と支援現場との差異はあるのか?~支援現場の立場から紐解いてみる~

なかなか人に言えない相談ってありませんか?

 

良く耳にするのが、やはりメンタル関連の悩みかなと感じています。 合っているのか、このままで良いのかなど正解が見えない問題でもあります。

 

また、分かってもらえるのか?等の相手に受け入れられるかどうかも気になってしまうようでもあります。実際にメンタル不調でしんどくなった際に、聞いたアドバイス等も頭では分かるが「それができないから困る」という声は、よく相談を受けます。

 

今回は、うつ病の治療経過を取り上げて、実際の様子と違いはあるのかを考えていけたいと思います。

 

うつ病の治療ってどんな経過をたどるのか

 

まずは、分かりやすいグラフがありましたので、参考程度にご確認ください。

 

銀座心療内科クリニック(https://www.ginza-pm.com/treatment/depression_detail.html)より抜粋

うつに関しての情報やデータは、これまで多くの研究結果や書籍が多数あります。そこで言われている治療の経過をまとめて示していきたいと思います。しかし、これだけでは、良くなっている方のしんどさがが伝わりにくいと思いますので、支援現場での実態を踏まえて回復まで「どんなことをすると良いのか」をお伝えしたいと思います。

 

うつ病の治療の経過については、呼び方は異なることがありますが概ね「病初期」、「回復期」「維持期」といった時期を経て、寛解となります。精神的な疾患の場合は、治癒、完治等は言わず「症状が治まっている状態」として寛解と表されます。

 

その他の用語は、下記ように定義されています

  • 反応 :うつ病の症状が50%以下に改善すること
  • 寛解 :うつ病の症状がほとんど消えること
  • 再燃 :治療中に症状がぶり返すこと
  • 回復 :寛解の状態が2ヶ月以上続いた状態のこと
  • 再発 :回復状態からまたうつ病が発症した状態のこと

 

急性期(病初期)

 

症状が最も強く出ている時期で、治療としては、十分な休養と薬物療法を中心に実施されます。特に初期の3週間は完全寛解(症状がほぼ完全に消えている状態)を目指すにあたってうつ病治療においてとても大切な期間です。

 

急性期ではゆっくりと症状が回復していきますが、ここで服薬を中断したり、焦って復職を早めたりすることは避けましょう。また、焦って無理に行動すると再燃してしまう可能性があるので注意が必要です。

 

服薬治療によって、イライラや不安といった症状が改善し、次に憂うつな気分が和らいでいくという過程をたどります。回復の過程で症状が良くなったり悪くなったりを繰り返すこともありますが、服薬を続けることで症状が徐々に改善していくため、焦らずに治療を続けることが大切です。

この時期に最も大切なことは、「服薬をやめないこと」と「焦らないこと」です。

 

服薬をやめないこと

うつ病の薬には副作用が現れる方もいらっしゃいます。

  • 眠気
  • めまい
  • むかつき
  • 下痢/便秘

などの症状が、厄介なことに抗うつ薬の効果より先に現れてしまうのです。この時期では、抗うつ薬の効果よりも薬の副作用が現れてしまうこともあります。

 

大事なことは辛くても自己判断で服薬を中止しないことです。継続することで薬の効果が表れ、不安や憂うつな気持ちが軽くなっていき、副作用も徐々になくなっていきます。

 

焦らないこと

うつ病は治療反応の過程で、以下の順に回復していくと言われています。

  1. イライラや不安感
  2. 憂うつ感
  3. 生活への興味
  4. 簡単な家事や外出
  5. 生活の楽しみ、活力

意欲などが戻るには時間がかかりますし、家事などの日常生活機能が十分に回復するのは、急性期の後半です。

 

仕事ができない事で周りへの申し訳なさを感じる方も多いですが、まずは治すことに専念し、焦らずに休養を続けましょう。

 

実際の急性期の実態は

文章だけだと、何の苦労もなく回復していくように見えてしまいますが、支援現場での実際は少し異なります。働いている人の場合を例にあげると、何とか働いている人がほとんどかと思います。受診する際は、産業医や会社から病院へ行くことを提案されたり、急に涙が出たり、会社に行けなくなる等があって病院またはクリニックに受診される方が多い印象を受けます。

 

そこから、療養と薬物療法が始まりますが、薬の効き具合や体調管理など自身の症状と向き合っていくことになります。服薬治療で症状を改善していくためには、ご自身で状態や経過を主治医に伝えていく必要があります。主治医も患者さんからの情報によって服薬治療の方針を決められるので治療のためにも自身の情報を伝えることが必要です。

 

また、以下のようなことで悩まれている方もおられます。

  • 病院に行くだけで精一杯
  • 電車に乗れない
  • 主治医と会わない感じがする

安心して治療を受けるには、それ以外の環境も、実は影響しています。

 

散歩や家事などの身体を動かす活動が良いことは、みなさん頭で理解されていますが、行動に「移せない」、「動けないぐらいしんどい」ということは良く聞かせてもらいます。

 

ここが、うつの治療過程でしんどい部分になっていると思っています。この様な状態では、1人で頑張り続けるには、状況的には困難です。

 

家族や友人などサポートしてくれる人がいることが回復するためには、必要です。

 

独身などサポートしてくれる人がいない状況であれば、支援をしてくれるサービスを活用すると良いでしょう。

 

経験則的に、単身者は、うつの治療が長期化、再年率が高い印象を受けます。単身者こそ、専門的なサポートを検討する方が良いです。

 

継続期(回復)

治療を続ていくと、徐々に物事に対する興味や楽しみ、喜びなどの感覚を感じられるようになります。うつ病は、一度にすべての症状がなくなるわけではなく、時間をかけて段階的に改善し回復していきます。少しずつ元の生活に近づいていき、「改善した」ことが感じやすくなる時期です。

 

状態が回復している段階ですので、ストレス要因が多い状況に急に戻ることは再燃(症状がぶり返すこと)の危険があります。

 

実際の継続期の実態は

急性期と比べると、症状は落ち着いて安定している時間が長くなっている印象です。

 

復職や再就職を繰り返してしまっている人の共有していることとして、急性期を終えた継続期の段階で「大丈夫」と思ったり、焦りから「早く戻ろう」と考えて、復職や就職活動を始める人が多くいます。

 

しかし、この状態でストレス要因が多い会社に戻ることや活動をすることは、自身が想像しているより大変なことが多いです。他の病気とは違って、「症状が改善した」=「治癒した」と感じてしまいやすいからです。

うつ病の治療で、療養が必要とされているのは、ストレス要因を極力減らすことで安定させる狙いがあります。あくまでもストレス要因が少ない状況で、回復しているのであって、ストレス要因に対して対策ができている状況ではありません。

 

復職や就職活動を始めるには、もう少し回復してから取り組むことが適切な時期になります。

 

ちなみに回復とは、寛解の状態が2ヶ月以上続いた状態のことと言われています。

 

維持期

 

症状もだいぶ落ち着き、元の生活に近づいていることが特徴です。症状が改善してからも再発を防ぐために、抗うつ薬の量を加減しながら薬物療法を続ける必要があります。

再発のリスクが高い病気のため、今後の再発を防ぐためにも、寛解(症状が完全になくなる状態)を目指す必要があります。

この段階でも、主治医としっかりと相談しながら、薬の調整をしていくことが必要です。

 

気を付けなければいけないことは、「再発リスク」です。

 

 

 

 

例えば、過去3回うつ病を経験している方は1年以内の再発リスクは、薬物療法のみだと90%と言われています。

 

再発を繰り返すほどに再発しやすくなっていくことが示されています。うつ病の5年以内の再発率は、1回目では30%、3回目では50%、10回目では90%という研究結果もあります。

 

このようにうつ病は、再発を繰り返すことで、再発しやすくなる悪循環に陥ってしまいます。また、治ったと思っても症状が残りやすくなり(残遺症状)、再発を繰り返す要因にもなりえます。

 

規則正しい生活習慣をすることがうつ病対策では重要と言われています。

 

うつ病は症状が回復しても一部の症状が残る残遺症状というものが存在し、それによって再発することが多くあります。残遺症状としては、不眠や活力の低下が残りやすいと言われています。

 

残遺症状があるかどうかで、再発のしやすさを比較したものです。よくある残遺症状とは、不眠や活力の低下です。

 

うつ病の治療では、残遺症状がなくスッキリと治る状態(完全寛解)を目指していくことが重要です。

 

実際の継続期の実態は

この段階で、復職や再就職をされていく方がほとんどです。

 

うつ病の症状は多彩に表れているため、本人にとっては、上手く進んでいる印象は少ない印象があるようです。多くの方が「何が良かったのか」と活動が継続できるようになったタイミングで自覚できるようになっています。

 

うつ病は、つらい憂うつな気分、やる気が起こらないのに何かしなければいけないと焦る気持ち、眠れないなど様々な症状があり、大きな苦痛を与える病気です。

 

しかも、症状等は同じに見えるかもしれませんが、うつ病にも色々な種類があり、全てが同じ治療方法や対策で上手く行くわけではありません。

 

例をあげるなら、

  • 慢性のうつ病
  • 双極性のうつ病
  • 発達障害のうつ病
  • 不安障害と合併して起こるうつ病
  • 産後うつ病

などがあります。

 

これらのことから、必ずしも服薬だけに頼って治療を進めるのではなく、最近では、認知行動療法やアサーション、マインドフルネスなどを組み合わせることが良いと多くの研究で報告されています。

 

回復し維持されている方は、できる範囲で取り組み続けていらっしゃいます。

 

働いていく人は、服薬する以外のストレス対処を実践したり、もし、しんどくなった場合の対策、職場に対応をお願いすること、等多くのことを準備して復職や就職していきます。

 

休職してから復職した人に関して、再発せずに働いている方々は、自分の症状や自分の管理ができている人が多いです。自分のことを客観的に見つめることができています。

 

自身で説明できるぐらいに、再燃した時の「対応策」を実践しておくことが必要です。しっかりと対策を行い、次の段階に進めていくことが「うつ病」を再発させないポイントです。

まとめ

うつ病は、回復の経過や対策等、多くのことが研究されており、知識としては理解できるのではないでしょうか?

 

しかし、実際には、想定しているようには、進んでいくことが少ないのが現状です。やはり、実際に体験している人がどんなことを行ってきたのかが何よりも貴重な情報になっていると思います。

 

「焦り」等の心理的な物や、「お金や家族関係」等生活に関する問題といったように、それぞれの人に関係した要因もうつ病に加えて、悩まれている方も多くいらっしゃいます。

 

この様な個別性のある課題も関係して、一般的なうつ病の治療だけでは、難しいこともあるのが実情です。

 

そのため、「うつ病の治療」と「生活」を分けて、対策していくことが重要です。

 

ただでさえ、うつ病で「しんどい状況」では1人で乗り越えるこは、至難の業です。しっかりとサポートを受けることが治療の第一歩だと考えています。